新聞記者、辞めました。

新聞記者、辞めました。

新聞記者、辞めました。でもなんやかんや新聞やメディアが好き。社会のいろんなこと考えていたいゆとりの戯れ言。

サツ担の先輩の無慈悲な言葉に心折れた話<#6>


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新聞社の内部って、人狼ゲームだよね。

誰を信じたら良いのかマジでわからなかった。

 

「年が近いから」「同じ大学出身だから」っていう共通点に乗せられて、こちらが勝手に信頼して背中を見せようもんなら、すぐさま人狼の餌食にされる。

 

「相談に乗るよ?」「しんどいことない?」って菩薩のような微笑みで近寄って来ては、心は般若の顔で私の弱点を探ってくる。

(弱点=会社への不満、上司への愚痴、仕事でのミス)

 

その握った弱点を武器に、私の上司に「〇〇さんのことこんな風に言ってました」って取り入ったり、私の後輩に「あいつはポンコツ」と吹き込んで自分のシンパを形成し、私を孤立させていく。

 

「会社の人間関係というものは、表面上はいい関係に見えて本当は殺伐としていて、誰も信じられない」という事実は、当時23歳の私には耐え難く苦しいことだった。

 

…まあ、この会社の雰囲気が悪いせいだけではなくて、そもそも”コミュ力お化けで根っからの陽キャ”みたいな人以外にとってみたら、会社はそういうものなのかなあと思ったりもする。

(社会人2年目の冬に転職した東京の出版社は、人狼ゲームなんてもの開催していなくて、とても良好な人間関係を築ける会社だったけど。)

 

あの新聞社が異常なのか、私のポンコツ・ヘタレ具合が異常だったのか、それともその両方なのか…。

 

それにしてもここ最近、私がいた新聞社に限らず、全国紙・地方紙ともに「20代の若い世代の退職率が上がり過ぎてヤバい」という噂を聞いても、全く意外性がないほどには納得しています。

 

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サツ担の先輩で、同じ大学出身のTさん(男)。5歳上。

 

Tさんの第一印象は、「カッコいい人」だった。

 

ほぼ毎日顔を合わせていたが、野暮ったい日が1日も無い。

スラックスのお尻ポケットからちょこんと三角形に見えている、ハンカチの柄が「今日もおしゃれだな~」と思っていた。

自分でもイケメンなのは自覚しているようで、「最近三浦春馬が僕の髪型に寄せてきている」とか言っちゃう人だった。

そういうときは私はちゃんと「たしかに~めっちゃ似てますもんね~」と言ってあげていた。

 

左手薬指には指輪が光っていて、その相手は県内の支局にいる年上の先輩記者だと聞き、「まあこんなイケメン、ほっとかれるわけ無いわな~」とか思いつつ、

社内結婚とか、もし会社倒産したらどうするんだろ~」とか真面目に心配していた。

 

Tさんとは同じ大学の出身だった。

会社にこの大学出身の人は私とTさんの2人だけで、同じ期間に在学はしていないが、勝手に親近感を持っていた。

 

 

サツ担に配属されて数週間後、Tさんと同じ休日出番の日があった。

 

お昼休憩になり、2人で近くの喫茶店に行く道中、Tさんから「こないだのデスクとキャップからの電話、大丈夫だった?」と聞かれた。

 

――鬼電事件。

 

前の週の日曜日の夜、20時ぐらいだったと記憶している。

副署長やデスクに怒られた記憶が頭から離れず、明日からの出勤がイヤでイヤで鬱々としていた。

寝室のベッドで寝転び、スマホに入っている音楽をイヤホンで大音量で聞いていた。

自分の心をJ-POPの力を借りて上手に騙し、どうにか生きる気力を見出していた。

 

気づくと30分ほど経っていたんだと思う。

 

イヤホンの向こう側で、なにかの音がする。

 

―――リビングのテレビつけっぱなしだった?

―――いや、ベルの音…

―――あ“あ”あ“!!!社用ケータイが鳴ってる!!!!!

 

社用ケータイはリビングのテーブルの上で充電していた。

慌てて飛び起きてリビングに向かい、すべり落ちそうになりながら電話を取ると、キャップからだった。

 

「おお、良かった。出たか。〇〇デスクに、電話して」

いつもと変わらないテンションと口調でキャップはそう言うと、電話を切った。

 

―――????

 

着信履歴を見ると、そこには地獄が広がっていた。

20:05 不在着信 〇〇デスク

20:07 不在着信 〇〇デスク

20:10 不在着信 〇〇デスク

20:13 不在着信 〇〇デスク

20:14 不在着信 〇〇デスク

20:17 不在着信 〇〇デスク

20:19 不在着信 〇〇デスク

20:22 不在着信 〇〇デスク

20:24 不在着信 〇〇デスク

20:26 不在着信 ■■キャップ

20:28 不在着信 〇〇デスク

20:31 不在着信 〇〇デスク

20:32 不在着信 〇〇デスク

20:33 不在着信 ■■キャップ

 

―――死んだ。

 

イヤホンで音楽を爆音で聴いていたせいで、鬼着信に全く気づかなかった。

 

―――担当署でなんか事件があったんだーーーうあわーーーーーーーー

 

サツ担の重要な任務の1つ、「ケータイを肌身離さないこと」。

いつどこで事件や事故が起きてもすぐに対応できるように、サツ担配属直後から言われていたことだった。

深夜でも早朝でも、お風呂に入っていても、運転中でも。もちろん休日も関係ない。

 

―――まーた大きなヘマをやらかしてしまった。。。

 

社用ケータイを持ったまま後ろに卒倒しそうになるのをこらえながら、おそるおそるデスクに電話をかけた。

 

 『何してた?』

 

「えっと、すみません、、、お風呂に入っていました」

 

「明日からの仕事が嫌なので、爆音で音楽を聴いて現実逃避してました」とは流石に言えず、「ケータイの着信気づかないシーン第1位(私調べ)」の「お風呂入ってました」と、とっさに嘘をついた。

 

そこから、延々と説教タイム。

デスクは声を荒げたりするタイプではなく、静かに怒る人だった。

それが異様に怖くてつらくて、心の弱いところをピンポイントに攻めてこられた。

 

私に電話が繋がらないことを不審に思い、キャップにも連絡をしていたようだった。

 

一通り怒り通した後、やっと本題に入る。

なんの事件が起きたの?私の知らないネタがどうせ弾けたんでしょ、はあすみません。と半ば自暴自棄になりながら聞いた。

 

『明日、一面で独自ネタが載る。』

 

「はい。」

 

『明日からの署回りで、もしネタ元とかを聞かれても一切、何も知りませんと言え。』

 

「…はい。」

 

『誰が記事書いたのかも、知りませんと言え。』

 

「はい。」

 

―――それだけーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー????????

 

そもそも本当に記事のことをなにも知らされていないのに、聞かれたとしても何も言えねーーーーwwww

 

秘密自体を知らないのに、「この秘密を言うなよ」って、なに?

 

ってかそれだけのために30分も説教されたのーーーーーーーーーーー

 

音楽で癒やされたものの、またどん底まで沈んでしまった私は、そこから小一時間ベッドの上で泣いたのだった。

 

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この”鬼電事件”は、私とデスクとキャップしか知らないことだと思っていたが、どうやらTさんも知っていたようだった。

 

年も近くて同じ大学という共通点の多いTさんなら、親身になってこの“電話事件”もアホな後輩のミスだと笑い飛ばしてくれるかもしれない。

あとイケメンだし。

 

そう思った私は、”鬼電事件”の真実を語った。

 

「・・・お風呂に入ってたって言ったんですけど、本当はイヤホンで音楽聞いてたんですよね、あはは(苦笑)」

 

Tさんの、喫茶店に向かう足が止まった。

 

「なあ、獅子。言っておくけど、入社して1ヵ月ぐらいのお前のことなんて、だれも信頼していなんだぞ

 

信頼できない部下だったとしても、上司として、もしそいつがもし重大なミスしたとしたらその責任を負ってクビになるかもしれない。

 

そういう覚悟でお前の上司をやってる。そのことを忘れるな。

 

嘘ついて信頼をデスクを裏切るようなこと、もう二度とするなよ。」

 

正論パーーーーーンチ!!(2週間ぶり2回目)

 

↓1回目はこちら

 

yutori-zaregoto.hatenablog.com

 

この会社には正論マンしかいない。

 

いや、そうなんです、1回目の女性の先輩も、Tさんの言うことも、なにも間違ってはいないんです。

 

だからこそつらさが増す。メンタル崩壊する。

 

真実をストレートに伝えることが正義ならさ、んじゃあ言わせてもらうけどさ、三浦春馬になんかまっっっっっったく似てねーーーから!!!

「うぬぼれないでください。三浦春馬に失礼です」って言えばよかったあああああ

 

YOUたちも新人のとき、いろんなミスとかしたり悩んだりしなかったんですかね?

ちょ~っと親身なって聞いてくれるだけで、それだけで「この先輩もいろいろミスしたり悩んだりしたのに、こんな優秀な記者になってる。私も頑張ろ★」って思えるのに。

 

 

きっと”鬼電事件”の真相は、Tさんの口からデスクへと伝わっているでしょう。

はあ…まーた心理戦読み合いのゲームに敗北しました。

 

新人のミスはもちろん、個人情報もなにもかも、全社員に筒抜けになりがち。

会ったこと無い警察署員から言われたこともあるよ。こわいよねえ。誰が流しているんだか。

 

新聞社に入社してまもなく2ヵ月。私は悟りました。

 

「この土地に、私の味方はいない。」

 

<続く>