新聞記者、辞めました。

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新聞記者、辞めました。でもなんやかんや新聞やメディアが好き。社会のいろんなこと考えていたいゆとりの戯れ言。

【エッセイ】実家大好き女

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約1年前の年末年始は実家に帰省していた。
年が明け、とうとう迎えた帰京前夜のこと。
途方もない寂しさに襲われた私は、自室のベッドの中で人知れずしくしく泣いていた。

実家を出た直後の大学1年の夏休みは「早く東京戻って遊びてぇぇぇ」「田舎すぎてつまんねぇぇぇ」なんて息巻いていたけど、3年生ぐらいから突如寂しさが上回るようになっていた。

とはいえ「26歳にもなって、家族恋しくて泣くなんておかしいんかな…私」と、思わずスマホで「実家 帰省 寂しい」と検索した。トップに表示されたヤフー知恵袋を開くと、私と全く同じ心境の人が質問をしていた。

「実家に1週間帰省していて、いま家族と別れました。
すごく寂しいです。上京して3年、一人暮らしは慣れたけど実家はやはりあたたかい。また明日から仕事かと思うとなんだか辛くて。(中略)
弱い私に励ましをください。」<引用元


ベストアンサーにはこの回答が選ばれていた。

「お辛いですよね。
でも、見送る立場も言葉では言い表せないほどの寂しさ感じるものです。

帰る日の朝まで寝ていた、まだぬくもりの残っている布団を片付けるどころか、放置しています。なるべく見ないように触れないようにして過ごすんです。

『着いたよ。ありがとう』の、言葉を聞いて隠れて泣いてます。絆は、そうして深まって行くものです。

寂しいのは、あなただけじゃないんですよ。親も必死に堪えているんです。反面、大人になっていく我が子を誇らしく思うものです。」 <引用元

 

向こうの部屋で寝ている母の姿を頭に浮かべると、さらに涙が込み上げて来てしまう。頬を伝って耳の中まで入って来た涙を必死でティッシュでぬぐった。
明日夜、東京ついたらちゃんと電話しよ。
足元の湯たんぽのぬくもりを感じながら眠りについた。


翌朝。帰省中の私の朝は遅い。

父・母・愛犬の中でもっとも遅い朝食を、1人でゆっくり食べた。

洗面所に向かう途中、自室のドアが開けっぱなしになっていることに気がつき、ふと覗いてみた。


そこにあったのは、緑色の床板カバーが丸見え状態のベッドフレームだけ。
マットレスは全開の窓の横に立てかけられている。

私のぬくもりが残っていた布団たちは、すでに天日干しされたあとだった。

母の朝は早い。

キッチンに面した窓から裏庭をうかがうと、風になびく洗濯物たちと一緒に敷ふとん・敷布団パッド・掛け布団・毛布が物干し竿にキレイに連なっていた。

ウッドデッキのテーブルの上では、枕が日光を浴びている。
その隣で、私の毎晩の相棒だった湯たんぽも口を開けて乾燥させられていた。


母らしくて、少し笑ってしまった。

毎回、私が帰省する日に合わせ、娘の部屋にふかふかの布団を敷いて待ってくれている。


今回もそうだった。冬の布団の一瞬のひんやりした感触のあとに訪れる、おひさまの香り。

私の布団のぬくもりは、母のぬくもりでできていた。