新聞記者、辞めました。

新聞記者、辞めました。

新聞記者、辞めました。でもなんやかんや新聞やメディアが好き。社会のいろんなこと考えていたいゆとりの戯れ言。

「部長にお酌求められて嫌だった」ってデスクに相談したら「それはお前が間違っている」と怒られた話<#4>

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私が新聞記者時代につけていた日記に、頻繁に登場する言葉が2つある。

 

1、「自分のことを話すな。弱みを握られるから。」(出典不明)

 

2、「敵は味方のフリをする」(出典:TBS系ドラマ「小さな巨人」より)

 

今回は、1つ目の座右の銘が生まれたきっかけとなるお話です。

……え?めっちゃ仕事できそう?それか、それこそ「小さな巨人」の長谷川博己さんみたいに出世争いでもしてそうな人の座右の銘ですよね。

 

違うんです。闇に落ちたただの20代前半の女です。

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「こいつ豆腐メンタルやな~こんなんでよく新聞社受かったな」って思うと思いますが、誠におっしゃる通りでございますので否定はしません。

 

4月下旬。

新入社員研修を終え、社会部の警察担当(いわゆるサツ担)に配属されて数日後のこと。

社会部全体での歓迎会が行われた。

 

サツ担に配属されたとはいえ、ペーパードライバーでまだ絶賛運転練習中の身分のため、なんだか肩身が狭いように感じていた。

 

 

yutori-zaregoto.hatenablog.com

 

しかも、こういう大人たちとの飲み会では、人一倍緊張してしまうタイプだった。

人生で初めてできた“上司”という人間関係の一角は、私に畏怖の念しか与えない存在。

「優等生な振る舞いをしないと」と、飲み会でのルールやマナーを事前に調べあげて歓迎会には臨んだ。

当日、居酒屋に到着後。宴会が始まる少し前にトイレに行きズボンのポケットに小さく折りたたんで入れてあった社員名簿を広げて頭に叩き込み、またそれを小さく折りたたんでポケットに忍ばせて、宴会場の席に戻った。

 

宴会場は長机が…何個ぐらいあったんだろう。

そんなことは覚えていなくて、とにかく、私の席の目の前には社会部長(50代・男)が鎮座していた。

 

・・・・・・。

宴会開始前にもう緊張の極みに達してしまう。

 

どこの会社でもそうだと思うが、新入社員歓迎会は入社2年目が幹事をすることが多い。

席決めも幹事の仕事だ。

部長と私が向かい合っているのは、もちろん「新入社員と幹部の懇親のため」という意味があって、他の同期らの近くにも次長やら局長やらが座っていた。

 

「ちゃんとお酌できなきゃ出世できない」と強迫観念に駆られている私は、机に置かれるビール瓶に手を伸ばすが、先輩社員に先を越される。

部長の一杯目が……あぁ……!

 

次は取り皿を配ろうかと、中腰のままあたふたしていると、隣に座っている経済班のデスク(30代・男)が、「まあまあ、そんな緊張しなくても、歓迎される側なんだし(^▽^)」と救いの一言を投げかけながら、おしぼりの山から1つずつ取り分けみんなに配っている。

 

「はあ…すみません。私、こういう飲み会が苦手で……。」

ゆっくり腰を下ろす。

「そういえば獅子さんって、こっち地元じゃないんだっけ?」「はい、○○市の出身で…大学は…」「そうなんだー!オレはね…」

 

「「「みなさん、お酒はいきわたりましたでしょうか~~???」」」

幹事を務める1期上の先輩たちが乾杯を始めそうなアナウンスをし始めたとき、

 

 

「おい、獅子」

「はっはい!」

 

突然部長に名前を呼ばれた。

 

お前な、おしぼりを上司の●●に配らせるな。新人なんだから、お前も気を配れ

 

「はっっっ、はい。す、すみません」

 

 

~本日の獅子まいこ、メンタル終了のお知らせ~

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心の声

👿「おしぼりってさ、人に触られたくないって人多いじゃん。私なんかが触っていいものか迷ってるうちに●●デスクが配り始めちゃったんだもん」

👿「おしぼりぐらい自分で取れるだろ、赤ちゃんかよ」

 

 

その後に誰と何を話ししたかだなんてほとんど覚えていなくて、ただただ目の前の部長のビールグラスを凝視していた。

残り4㎝~3㎝を切ると、「部長!お酌しますっっ!!!!!!!!!!!!!!!」とビクビク声震わせながらお酌した。

手が震えてるからか、泡ばっかりor泡が全然ないビールしか注げなくて、前の晩予習したことは全然生かせなかった。

 

「次のお酌こそは!」って思うんだけど、部長だから社員がかわりばんこにお酌しにくる。

宴会中盤以降、ビールグラスが4㎝を切ることがほとんどなかった。

私も、警察班のデスクやキャップ、直属の先輩たちにお酌しに回ったり、新入社員や社会部に新しく異動してきた人の自己紹介スピーチなどを行っているうちに、いつの間にかラストオーダーの時間が来た。

 

はあ…おいしそうな刺身全然食べられなかったな・・・と思っていると

斜め向かいに座っている地域班のデスク(40代・女性)に話しかけられる。

聖母みたいな微笑で、「今日は獅子ちゃんとキチンとお話しできなくて残念だったわね~」なんて言いながら、隣の部長にお酌しようとしていたから

「あ!私がお酌します!!!!!!」って身を乗り出すと、

「あら、そう?今日はあんまり部長にお酌できなかったの?私なんかより、若い獅子ちゃんがついであげた方がいいもんね~♪」と言いながらビール瓶を渡してくれた。

 

「は、はあ、すみません。」

 

すると部長は、口角を1ミリも上げることなく私の前にグラスを差し出した。

 

そうだな。今日は獅子は全然ついでくれなかったな。若いのにな。

 

 

~獅子まいこ、メンタル終了のお知らせ(本日2回目)~

 

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心の声

👿「は?全然ってなに?ついだよね?ついだよ?は?」

👿「ってかここはキャバクラか?ママと新人キャバ嬢のやり取りか?」

👿「ビールぐらい自分で注げ。赤ちゃんかよ」

 

 

まあ個人的に当時1番解せなかったのは、新聞記者でしかも部長なのにモラルないこと結構言うんだな~ってこと。

別に部長に限ったことではないんだけど、かなり「古い考え」のままの人が多い。

高校卒業後は地元を出て某首都圏の大学に通って、ジェンダー論とか男女平等とか性的少数者のこととか、少しだけど学んできた私にとって、ここは未開の地なのかと思うことも多々あった。

 

(「40歳で結婚していない男は性格に難がある」って40代の既婚デスクたちが報道局内のフロアで、大声でガハガハ喋っていたり。独身の某デスクのことを指していた)

心で思うのは勝手だけど、報道局内で言うなよ。

 

 

新聞記者とはいえ1人の人間。聖人君子な言動をすることは不可能なのはわかっている。

キリストみたいに「罪を犯したことのない者だけ(=記者)が、この女(=悪いことをした人)に、まず石を投げなさい(=記事を書いて糾弾する)」とまでは言えないのもわかっている。

 

とはいえ、例えば会社でのセクハラやパワハラで自殺してしまった人がいたら、その企業を批判する記事だって書くと思う。

こんな人たちに、本当に意義のある記事なんて本当に書けるのーーーー?

なんだかなあ。このもやもや。

 

これはのちのちわかってくることだった。

この新聞社で記者を続けるのに、こんな“無駄な正義感”と“真面目さ”を持ち合わせていては務まりません。

はあ。大学時代、就活をしている自分に言ってあげたいぜ。

 

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メンタルぐしゃぐしゃで散々な結果に終わった歓迎会の翌日。

デスク(40代・男)と2人でランチを食べていた。

 

「昨日の飲み会どうだった?部長大丈夫だった?」

 

私はこの当時、まだデスクのことを心から信頼していたので、昨日のメンタル崩壊話をしてしまった。

「元々上司との飲み会が緊張する」

「『これだからゆとりは』って一蹴してもらって構わない」ことをきちんと伝えたうえで。

 

 

私が話し始めると、デスクは次第に神妙な面持ちになり、おもむろにジャケットの胸ポケットから手帳を取り出して私の言葉を書き留め始めた。

 

ああ、私は新人だし女だし、デスクなりにきちんと受け止めてくれたんだって嬉しく思った。

「でも、そんな大ごとではなくて、私の性格の問題もありますし。こう感じるのは私だけだと思います」

 

それでもデスクは、詳しく私の心情に耳を傾け、こう言ってくれた。

「お酌ができなくても、なにも心配することはないよ。昔はこの会社にも『俺の酒が飲めないのか~!』って怒鳴る人がいたとか聞いたことあるけど、今の時代じゃ許されないからな。俺も全然酒飲めないけど、人並みに出世できてるし(笑)。

 

ほかの人にも何か言われてないか?またなんか飲みの席であったら、俺に報告して。」

 

デスクに感謝の言葉を伝えて、喫茶店を後にした。

 

 

数日後。

同じ喫茶店の同じ席で、同じようにデスクと向かい合い、同じようにランチを食べていた。

その日のデスクは急いでいたのか、咀嚼のスピードが速かった。

 

「なあ、獅子。この間のことだけど、飲み会の」

 

「は、はい。」

 

もしかして部長に言って謝罪の言葉でももらってきたの?そこまでしなくていいのに!!!そんなに大ごとにしないでって言ったのに!!と、心臓の鼓動が早まる。

 

 

「俺も考えてみたんだけど、部長はそんなことする人じゃないと思う。

 

 

・・・・・?

 

 

「この間の歓迎会は、獅子の態度が間違ってたんじゃないの。部長からお酌しろって言われて、嫌って思うお前の方がおかしい。」

 

 

・・・・・・・・?

・・・・・・・・?

「そ、そそうですよね。すすすすみません」

 

パワハラとかアルハラとか、あんまり……そういうことは。な?」

 

言外の圧力を感じた。

 

な?

 

「あと、上司との飲み会が苦手とかいうの、俺もそうだけど会社の人に言うのはよくないぞ」

そう言うと、デスクは立ち上がり、食事中の私を残して、会計を済ませ喫茶店を後にした。

 

 

 

――負けた。

 

 

デスクにとって、私と部長の信頼度でいったら

私<<<<<<(∞)<<<<<<(越えられない壁)<<<<<<(∞)<<<<<部長

なのに、なぜ部長を悪く言うようなことを打ち明けてしまったのか。

迂闊だった。

 

この勝負(別に部長と戦ってなんかないけど)、デスクが私の味方についてくれる可能性なんて皆無だった。

なぜ気が付かなかったのか。

「なんでも話してみて」って言われて乗せられた自分がバカだった。

 

 

この勝負に負けたからと言って、別に出世が立たれるとか昇給できないとかそんなデメリットはない。

デスクが「獅子が部長のことこういう風に言ってましたよ」って告げ口してようがしてなかろうが、そんなことはどうでもいい。

 

「人を信じられなくなっていく。」ただそれだけ。

 

社会人1年目。精神的にも肉体的にもタフな仕事が多い新人新聞記者にとっても、

23歳女性としての日常を過ごすうえでも、かなり致命的なものを失っていくきっかけとなる出来事だった。

 

 

デスクに失望した私は、数週間後に行われたサツ担メンバーの飲み会をボイコットする。

(この話を入れようと思ったけど、長くなりそうなので割愛。)

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自分のことを話すな。弱みを握られるから。」

 

 

この呪縛から解き放たれたのは、この後転職した出版社での人々との出会いがあってから。

「社会人になっても、人って信じていいんだ~!☆彡」って驚いた記憶がある。

 

 

デスクの言葉以外にも、出身大学が同じ先輩(男)、一見優しそうな先輩(女)、同期たちなど、私の心を閉ざす一因を作ってくれた人はたくさんいる。

だからって、当時も今も、彼らのせいだとは思っていない。

当時は「この世に生まれてきた私が悪い」って思っていたし(愚痴はたくさん言いましたすみません)

今は彼らの言動は「新聞社で働くには必要な素質」と思っている。

 

 

世の中のことを知れて、人の痛みがわかる人間になれたから、

私は新聞記者になったことも辞めたことも、全然後悔していない。

 

<続く>